2018年6月6日水曜日

欧文史料で読み解く豊後宇目の「るいさ」②


 ■半田康夫教授の調査に基づく従来の見解
 半田康夫教授が渡辺由忠氏から連絡を受け、「るいさ」墓碑の調査を実施したのは昭和31年(1956)夏のことであった。報告書は翌32年(19575月刊行の「大分県文化財調査報告書・第5集」に上げられ、それ以降、一般に周知されるようになった。
 氏は、同墓碑が宇目村大字重岡字宮園の旧「割元役」(註1)であった渡辺家の累代墓地にあることから、「るいさ」を同家先祖であると想定した。そして、「渡辺氏系書草案」や「位牌」等の史資料により、「宇目渡辺家の祖・善左衛門重福に嫁いだ」「もと岡(竹田)藩士渡辺与吉郎の娘(俗名不詳)」なる人物を割り出し、「一男一女を生んだのち元和5年、30歳前後で没したようである」と推定した。没年時の年齢を「30歳前後」としたのは、夫・善左衛門の享年―寛永18年(1641)に52歳で死去―から「推測」されたものである。
 結論から言うと、これは仮説の域を越えるものではない。仮りに新たな史料が見つかり、それが半田氏の仮説を裏付けることになれば事実であると断定されるが、双方に矛盾・齟齬が出て来た場合には、見直しを余儀なくされるであろう。
 
 ■托鉢修道会宣教師による「ルイサ」の記録
 次に、筆者が新たに発見した宣教師による史料―「ルイサ」に関する記事2点のうち、先にドミニコ修道会の宣教師ハシント・オルファネールの記録から紹介しよう。師は1613年暮れ、島原から肥後を経て豊後国竹田に至り、ルイサの家を訪ねた。

 …(1613年)12月初旬に…私は高来(註=島原半島)へ行きましたが、そこは迫害があって間もなかったので、仕事がたくさんありました。そこから肥後を通って南郡(註=豊後国の直入・大野・南海部の3郡)へ行くと、そこでも竹田市で告解を聴いたり棄教者を信仰に立ち戻らせたり、異教徒の洗礼を授けるなど多くの仕事がありました。そこで私はディエゴ・弥五兵衛という身分が高くて殿(註=中川久盛)に最も重んじられている人々の一人である者の家に泊まりました。この人物は1613年以後の迫害において執拗に棄教を求められましたが、強い信仰によって勇敢に対抗したので、殿の寵愛や財産をことごとく失いました。この秀れた武士の家はすべての修道会の修道士たちの通常の宿になっていました。
 ここの仕事を終わって私はただ一人の婦人のいる異教徒の町へ行きました。彼女の一家は裕福であり、その町の主要な人物であるから喜んで私を泊めてくれるだろうと思いました。その家に着いてみると、ルイサというその婦人は不在でしたが、その夫は異教徒であり熱心に偶像を崇拝しているにもかかわらず(一人の仏僧を養っているほど熱心でした)、私が来ることを知った時に息子を途中まで出迎えによこし、妻のために私を暖かく迎え容れ、喜びの様子を示しました。この家で神の予め定め給うた特別なことが起こりました。冬であったので私が火にあたっている時、すでに結婚しているこの家の娘が幼児を抱いて、火にあたるという口実で私に近づき、秘かに「私はキリシタンです。私は告解をしたいし、この子は未だキリシタンではありませんから洗礼を授けていただきたいのです。しかし私と子供たちがキリシタンであることを父が知ったならば、何か大きな面倒が起こる心配があります。母は昔からのキリシタンですから、キリシタンの修練を行なうことを見逃していますが、私と子供3人がキリシタンであることを父は知りませんし、疑ってもいません。それは母だけのしたことですから」と言いました。私が「火にあたったまま告解をしなさい」と答えると、彼女は父親の入って来るのを心配しながら告解をしました。それが終わると、私は子供に洗礼を授け、ビセンテという名をつけました。その少しのち私は再びそこを通った時に、この子供が死んで天国で行ったことを知りました。
 そこを出発して私は豊後国の臼杵へ入りました。ここはアグスティン会の神父が一つの教会をもっていました。…16142月末、私がアグスティン会士の修道院にいたとき、将軍の命令(註=禁教令)が届きました。その命令が全国の領主に、領内の教会を毀し、船に乗せて自国へ追放するため領内にいる宣教師を長崎市へ送るように命じていることをしりました。…(註2)

 【註1】…割元役(わりもとやく)は江戸時代の地方行政組織、身分は士分に準じ、代官・郡代と庄屋の中間の立場にあった。数か村~数十か村を支配し、年貢や諸役の割り振り、指図などをおこなった。
 【註2】…『福者ハシント・オルファネールOP書簡・報告』(1983年・キリシタン文化研究会発行)107~109頁。

 (つづく)

半田康夫氏が調査した昭和31年頃の「ルイサ」墓碑。同氏著『豊後キリシタン遺跡』(1962年・いずみ書房刊)掲載。

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